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奥多摩のヤクザ

奥多摩のヤクザ

藤原麻里菜

 

 

 

中学2年生の夏の朝、私は誰にも言わずに家を出た。

夏休み中の私は、いつも通り昼過ぎの起床。ワイドショーにチャンネルを合わせて、ソファにごろんと寝転びながら、朝食の残りのおにぎりをもぐもぐ食べていた。そんな私に向かって母が、「夏休みなんだから、外に出て遊びなさい」と言いだした。
私は、面倒な友人関係と距離を置いて、絶賛夏休み満喫中なのに。お母さんは何も分かってないな。

ちょっと困らせようかな。そう思い、日帰りの家出をすることにした。横浜の自宅から3時間ほどで行ける奥多摩の鍾乳洞に、明日の始発で行こう。よし、決めた。携帯電話で乗り換えを検索して保存した。便利な時代に生まれたものだ。

始発には起きられなかった。でも、親が起きる前には家を出発することができた。そうっと玄関を閉めて、うきうきしながら小走りで駅へ向かう。

まずは、川崎駅まで東海道線で移動する。スーツ姿の大人たちに囲まれながら、電車に乗り込んだ。藤原家では、高校入学まで許可のない電車への乗車は禁止なのだ。しかし、ルールは破るためにある。

川崎駅からは、南武線に1時間ほど乗って立川まで行く。な、南武線……。初めて聞く名前に怯える。鹿島田駅のあたりで、母から電話が入ったが、電車なので出なかった。心細くてすぐにでも声を聞きたい。しかし、ルールは破ってもマナーは守るのだ。

立川駅で折り返し電話をする。「奥多摩に行く」と言うと、少し笑いながら「何してんの」と言われた。「いや、外に出ろって言ったじゃん」昨日の夜からずっと考えていたセリフを言えて嬉しい。「とりあえず気をつけて」そう言われて通話が終了した。

立川から奥多摩まで向かう。いつのまにか東京らしい景色は消えて、自然ばかりになっていた。

奥多摩駅につき、1時間に一回発車するバスで山を登って鍾乳洞についた。5分くらいで見飽きて、外に出た。バスはまた1時間後にしかこない。

しかたなく山道を下ってみることにした。1時間ほどか経過したけれど、まだ先が見えない。駅伝の選手みたいに足が痙攣し、歩けなくなった。

あ、これは人生が終わりだな。と思いながら山道でうずくまっていると、エンジン音が聞こえてきた。黒塗りの車は、私の前で止まった。足を引きずりながら運転席を覗いたら、パンチパーマにサングラスで金色のネックレスをした男性が一人で乗っていた。

完璧なヤクザだ。この見た目でヤクザじゃなかったら、それはそれでヤバイ人じゃん。ひるんでいると、ヤクザは言った。「大丈夫? 駅まで送るよ」

あ、これは人生が終わりだ。でも、どうせ死ぬなら駅まで行って死にたい。よくわからない理屈で、車に乗せてもらった。怖くてあまり話せなかった。

駅で下ろしてもらって、お礼を言って、母が好きそうなお菓子をお土産に買って帰宅した。

 

帰宅すると、母は笑っていた。ぶっきらぼうにお土産をテーブルに置いてテレビをつけた。

 

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ボツになった原稿をここで成仏させます。

日原鍾乳洞

 

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なんか今はインスタ映えらしいよ。