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日常をゆるやかに破壊するコント、明日のアーについて<藤原・恐山・大北 鼎談 >

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踵の皮をぺりぺりめくりながら、「飽きたなー」と思ってきた。ずっと同じ体だし、顔だし、世界だし。インターネットでみんなが話している内容も、サブジェクトが変わるだけで本質は変わらない。それがいいとか悪いとか、私は判断がつかないんだけど、とにかく飽きてしまった。急に体がカービィみたいな丸い球体になるくらいの変化がほしい。

 

飽きてきたから髪を染めてみたりしてみたけれど、そんなことじゃなかった。見た目を変えても、楽しいことはあんまりない。

 

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「Windowsアップデートが俺たちになにかしてくれたことがあるか。一度でも、たった一度でもだ」

「Windowsアップデートは突然に」/監督・脚本 大北栄人

 

「明日のアー」というコントグループは、そんな日常をゆるやかに破壊してくれる。

 

主宰の大北さんが監督をした「Windowsアップデートは突然に」という短編映画は、人生の大切な局面でWindowsアップデートが始まってしまう主人公を描いている。

大北さんの描く日常と地続きにある冗談は、ばかばかしくて別になんも身にならない。でも、見飽きた日常の違った見方を教えてくれる先生みたいな存在でもある。

 

www.youtube.com


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左から、ダ・ヴィンチ恐山、大北栄人、藤原麻里菜

 

「明日のアー」の公演がもうすぐ始まるということで、大北さんを中心になんか話そうか、と集まった。

仮面を被っているのはダ・ヴィンチ恐山さん。オモコロの編集部として記事を書いたり、品田遊という名前で小説を執筆したりしている。彼が書くものも、飽きた日常をばかにするような、そんなおもしろさを感じる。

 

omocoro.jp

 

場所は、昭和初期から著名な演劇人たちが集まり、議論に熱をあげていたと言われる「バーミヤン」だ。

 

インターネットからでてきたアー

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大北「2人に会うのはサイゼ以来やね」

藤原「たしかにそれ以来ぶりだー。高いワインを頼んだらパッケージがイラレで盛り上がりましたね」

 

 

 

藤原「我々の共通点ってなんだろ。インターネットでなんかやってることですかね」 

大北「冗談をやってるね」

恐山「たしかに、”冗談”ですね。ただの冗談をやってる」

 

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賢一郎「もし、父親なんてものがここに現れたとしたら、それは俺の敵だ。でてけ!」

父「だから、上座はいやだって言ったんだよな」

2×4の家に父帰る / 「観光」

 

藤原「でも、アーはネットから離れた”舞台”というところで勝負していますよね」 

大北「今まで、コントってふつうはお笑い芸人がやるものだ、みたいなところがあり、それか、演劇の人か。でも、アーは、そのどちらでもなくて」 

藤原「ちょっとイロモノ扱いされてしまうことはありますよね」

大北「初年度はそうでしたねー。ネットからでてきたやつ、みたいな。でも、最近は違うかな。舞台芸術って、どうしても技術が必要じゃないですか。そっちの方に足を踏み入れてきたような。違うかな」

 

「ママさんバレーみたいなことをしたかった」

 

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土屋「色々、あった」

女「裏切られたり?」

土屋「そうね、私にもクックパッドで煮え湯のレシピを検索した夜があったわ」

女「煮え湯を、飲まされたんじゃなくて、自主的に飲んだんですね、煮え湯を

-中略-

土屋「つくってみました」

女「つくレポまで!」

自己複製する恋/「猫の未来予想図Ⅱ」

  

藤原「明日のアーのコントを演じるメンバーは、俳優もいるし、藤原さんとか土屋さんとか、よシまるシンさんとか。俳優ではない人たちも多くて、それがアーだな、という感じがします」

恐山「知り合いのほうが面白さを直感的に分かってくれるから誘ったんですか?」

大北「うーん、もっと前段階の話かな。表現って恥ずかしいもので、それを知らない人を集めてやるのはなかなかハードルが高いですよねー。なんていうか、」

 

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大北「ママさんバレーみたいなことやりたかったんですよ」

藤原「ママさんバレーかー」

 

www.youtube.com

「共和も民主もどっちもがんばれ。アメリカよフォーエバー」

アメリカが好きな橋田/プープTV

 

藤原「大北さんって、知り合いに変なことやらせるの上手いですよね。共和のときにタン、民主のときにウンでアメリカの政権を楽譜にしてカスタネットやらせたり。そういう動画から、やらされている人のゆるやかな空気の面白さを感じます。多くの人にウケるものじゃないかもしれないけれど、すごく好きです」

 

大北「メジャーなおもしろさと自分だけが好きなおもしろさってない? みんなどう折り合いつけてるのかな」

恐山「自分だけがおもしろく感じることというのはあまりないかもしれないですね。なにか思いつくとしたら、どこかしらの層にウケるだろうなという公算があります」

 

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恐山「たまにやるんですけど、任意のユーザーのツイッターアカウントを100件以上遡ってみて、好きそうなツイートを分析してつぶやいて、その人からお気に入りをもらえるようにツイートを試行錯誤したりしますね。お気に入りされたら、すごくうれしい」

 

大北「職人の域だ」

 

ナンセンス学ロジック派

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「俺が、おとりとなって川下のほうにおどりでる。みんなは一列になって縦走し援護。吉田は最後尾について大きく迂回し、告りに行け! そして、OKをもらえ!」

非常事態の恋は非常事態/「観光」

 
恐山「大北さんは、書こうと思う気になるまで待ちますか?」

大北「うーん、けっこうロジックで書いているので、そのロジックの道が通ったら書き始めるって感じです」

藤原「ロジック!」

大北「結構、右脳というか、感覚で書く人も多いかもしれないけれど、そんなタイプじゃなかったな、と思って。ガチガチのロジックを考えてから書きます」

藤原「でも、コントってそっちのほうが見やすいですよね。ふざけを洗練させるためには、ロジックが必要だなと思います」

大北「見ていて緊張感とか危うさがない気もするんですよね」



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女「気持ちを、複製……?」

土屋「そう。誰かの好きだという気持ちを複製することにしたの。そうすると好きだって気持ちはずっと残る。自己複製するウイルスみたいに」

女「それでいいんですか?」

土屋「いい。幸せです。」

-中略-

女「……じゃあ聞かせてください。そのあなたの複製してきた好きって気持ちは、だれを好きなんですか?」

土屋「わかりました、私の好きだっていう気持ちを繰り返してください」

女「はい、おねがいします」

土屋「……炭火で…」

女「炭火で…」

土屋「……焼き肉が」

女「おやおやおや…」

土屋「食べたい!」

女「……牛角ですね、それ」

自己複製する恋 /「猫の未来予想図Ⅱ」

 

大北「”あるある”が好きなんですよ。あるあるって無価値なものだと思ってて、それを価値のあるものに置き換えるのが好き。大切な場面で『炭火でやきにくがたべたい』っていう牛角のコピーを言いたい」

恐山「私が明日のアーを見ていて思うのは、『そのあるある通じると思ってるんだ』というところですね」

藤原「わかります。ダーツみたいな的があるとしたらすごく端っこのところだとおもいます」

大北「伝わりづらいことも、大きな声で言えば通ると思ってるところはあるよ」

 

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恐山「そういうことも含めて、見ているときの印象だと、ロジカルな感じはないかもしれないです。狂の人、だと思ってました」

大北「そうかなー。けっこう考えてます。ドラマチックな場面であるあるを入れる、っていうさっきのもそうだし。何か一つのパターンを見つけてそれをズラしていくことを考えてやってますね。お笑いって論理構造だと思っていて、論理を崩すから面白いみたいな」

藤原「ああ、なるほど」

大北「ナンセンス……。ナンセンスなんだけど、わけわからないことをバーっとやるわけじゃなくて、ロジックで笑えることをちゃんと考えるようにしてますね。だから、僕はナンセンス学の最ロジック派ですね」

 

藤原「あー。でも、ヤバめの家に住んでる人とかも、その人なりにロジカルに考えて変な家を作ってますよね」

大北「文字で埋め尽くされた家とか」

藤原「そうそう。それと同じにおいもするな」

 

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藤原「ていうか、すみません。大北さん、その自転車乗ってるんですか」

大北「うん」

藤原「なんか、カゴがあるべきところに平たい網がくくりつけられてますけど」

恐山「これが、ロジカルに考えられた自転車か」

大北「いや、これは、まったく考えていない自転車です」

 

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藤原「次の本公演は11月の頭からですねー。楽しみだ」

大北「『最高のアー』というタイトルをつけてしまったので、書けなくなっちゃったんですよね」

藤原「自分でハードルをあげてしまったんですか」

恐山「『書けなさ』という日記をnoteで更新してましたよね」

大北「そうそう。書けなくなったから、書けないことを書こうと思って、それをテーマにしました。でも、やればいいのにやらない、みたいなことって、今までの人生でたくさんあったなあと思って。宿題とか、勉強とか。そういう『やらなさ』ってあるなあと」

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恐山「プロにみられたい、みたいな思いってありますか?」

大北「うーん、僕自身は『ちゃんと考えてるね』と思われたい気持ちはあるかな。でも、アーはいろいろな人が集まってきてるから。ずっと最強の草野球チームでいれたらいいですね。でも、びっくりするほどうまくなってもおもしろいけどね」



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嫁「それ、お見合いアプリですか?」

義父「うん」

嫁「いいですね。そういうのも」

義父「女の子が服を脱いだり着たりしてるからね。なんかエッチなものが見れるんじゃないかと思って」

嫁「すごい。広告の意図通りに動いていますね」

義父のうどん屋 / 観光

 

「明日のアー」というグループ名のアーは、恥ずかしいことを思い出してアーとなることのアーらしい。明日のアー。

 

舞台にあがった役者たち、脚本を「書けない」と言いながら書き進める大北さん。ツイート職人と化している恐山さん。踵の皮をぺりぺりはいでカービィになりたがっている私。

日常はずっと地続きだ。「本番」がはじまってもその境目なんてなくて、ずっと日常が続いていく。でも、本番中に私と大北さんと役者の日常がクロスする。そこから生まれるものは、感じられることはなんだろう。

 

日常はあまりにもおかしくて、新しいものがたくさんひそんでいる。それを毎年教えてくれるのは、明日のアーなのだ。

 

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テアトロコント special 明日のアー vol.5

『最高のアー 』

作・演出・出演:大北栄人

 

出演:

笠木泉/桑原美穂(左右)/ナツノカモ/7A

花池洋輝(左右)/藤原浩一/

八木光太郎/よシまるシン/

ゲスト出演:石川浩司 (パスカルズ、exたま)

 

音楽&演奏:左右

舞台美術:最高記念室

 

2019年11月3日(日)〜6日(水) 全6回

 

場所:ユーロスペース

チケット: https://t.livepocket.jp/t/saikou

 

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photo by 7A(https://twitter.com/hatokowai )